楽しい遠足の前日になんて眠れない(前編)

2008年8月12日。ついにその時はやってきた。
会おうと言っていたのが4月ぐらいだったから、それから約4ヶ月も経ったことになる。
当日になってしまうと、今まですごした期間なんて本当に早かったと思える。
お互い忙しい生活の中でちょこちょこと予定を立ててきたわけだけど、実感なんてものは皆無。
もちろん当日に急に感じるわけでもなく、やはりそういうものはなかったように思える。

思いのほかすっきりと目が覚め、時計を見たら5時。
いつも通りに起きてしまう自分に少し笑いながら、改めて日付を確認する。
「8月12日」という機械的な文字を見て、あぁいよいよなんだなと思った。
起きる前に来ていた彼からのメールを見る。だんだんとこっちに近付いているようだった。
本当にそれが他人事のようにしか感じられない。
今からはるばると1000kmの道のりを超えて来た人に会うとしても、だ。

十分に時間を使って身仕度などを整える。
普段友達と遊びに行くのと何ら変わりはないのだけれど。
どことなく自分が緊張してるなと感じるのは、やっぱり意識しているのだろうか。

集合時間は9時にある地下鉄の駅の改札口。
その時間にはちょっと早かったけれど、なんとなく気持ちに押されて家を出た。
夏にしては涼しい爽やかな風を受けながらバス停に向かう。
今日がいい天気で本当によかった。気分的な問題でね。

バスに乗り、最寄りの地下鉄の駅まで着いてメールを確認。
確か宮城県内に入ったとか書かれていたような気がする。
(半年以上前のことを書くのはなかなか難しいですね。)
メールの頻度がだんだんと多くなっていく。約束の時間まであと1時間ぐらいだったかな。
流石に早く出すぎたと思い、最寄りの駅で時間を潰すも大して潰せない。
いてもたってもいられないとはこのことなんだと思う。
遅れるよりは全然いいやと思い、早々に地下鉄に乗り込んだ。
いつも通学で使っている地下鉄。でもその日に限って、まるで初めて乗るような錯覚を覚えた。
心なしかドキドキしてる。気のせいじゃない。私、緊張してる?
演劇の舞台でもこんなに緊張はしなかったんじゃないかなって思う。
その証拠にお腹もちょっと痛い。別に意識していないんだからしょうがないことではあるけど…

いつもの機械的なアナウンスが流れ、地下鉄が出発する。
最寄りの駅から次の駅までは地下鉄と言うよりはモノレールに近いかもしれない。
だって、地下鉄と言ってるくせに高いところから景色を見ているのだから。
それは地形的な問題だからしょうがないなんて、前に誰かと話したっけか。
さらに次の駅にはトンネルを通るから、少しは地下鉄っぽくなるんだし。
街中に行ったら完全に下のほうにもぐってしまうのだから不思議だ。
最寄り駅の標高はあまり高くないらしい。そんなに違うものなのだろうか。
なんていう議論は本当にくだらないというか、どうでもいい。
緊張している時に限って冷静になろうと、余計なことを考えるのが私の癖(なのかな?)。
それが成功するのかどうかという事実は置いておくとして、
なんとなく座ってるのがいてもたってもいられないというもどかしい状況から逃れたかった。
車窓の景色が忙しなく変わっていくように、私の心も右往左往していたんだと思う。
決して会うことに対して迷っていたわけじゃない。
1時間もしないうちに自分が惚れたという人と知りあって半年で初めて出会うわけだから。
そりゃやっぱり特別な思いを抱かずにはいられなかったんだと思う。私も人間だね。

一足先に待ち合わせの駅に着いて、改札へと向かって見た。
もちろん誰かがいるわけはない。いては困る。そんな心配は全くしていなかったけど。
こんなところに来るのはよほどの物好きか、その辺に住んでいる人かぐらいだと思う。
駅前はもしかしたら知っている人に会うかもしれない、という理由で避けたんだっけか。
だからこんな誰にも会わないような場所を設定したわけだけど。
…うん、本当に何もないところだ。それでも全然構わないわけだけどね。私の場合。

学生にとっては夏休みなのかもしれないが、労働者にとっては仕事がある1日に変わりない。
ラッシュ時は避けていたけど、スーツ姿の人が行き交うのを見てたくましいなぁとか思った。
改札から出て右のほうに、大きな公園へと続く階段がある。
まだ時間もあったので、彼からメールを気にしつつその辺をぶらぶらした。
朝に感じたすがすがしい気分はここでも健在だ。別に朝早くだから空気が澄んでいたわけではないらしい。
天気予報は忘れてしまったけど、実感的には本当に過ごしやすい日だった。
こういう日に会えるのも何かの運なんじゃないかと思う。

涼しい空気を吸い込みながら、少しずつ高まる気持ちを抑えてメールに反応する。
緊張してたって過ぎてしまうものは過ぎてしまうもので、約束の時間まであと10分ほどだった。
階段を上って改札駅付近に戻ってきた。やっといよいよ、という気分になったようなそうでないような…
ここから彼からのメールがストップしていて、別に大したことでもないのに不安になってた気がする。
もしかして、釣りだった?…いや、それはそれでネタになるからいいとして。
多分、地下鉄の場所の問題なのだろう。教えてなかったのは失策だったね。(´・ω・`)
約束まで5分、4分、3分…ドキドキと鼓動が高まる。私は中学生か。
2分、1分…地下鉄の電車が止まる音が聞こえる。その時、携帯が鳴った。
手元にあった携帯を見る。無事に地下鉄に乗れ、今集合場所の1つ手前の駅と書かれてあった。





(あれ、ということは…)





ふと携帯をまじまじと見つめ、自分の向かって右側にあった改札のほうを眺める。
目に入ったのは、白地に青のラインが入ったポロシャツにジーパン姿の男の人。
一瞬だけ、時が止まってしまった気がした。
聞いてた服装と感じと一致。つ、つ、つまり…あ、あの人だっ!!
時間も時間であまり降りてくる人もいない。他に相当する人もいなかった。
一瞬ドキンとしながらも平然と装うのが私スタイル。意識しているわけじゃないよ。

改札から出てきたその人の顔を見てやっと確信。あぁ、彼だ。
ネットで出会い、チャットと通話を重ね、思いが通じ合った人。
その人が今、私の手の届く範囲まで来てくれたんだ。
ちょっと私から逸れるようにして来たのはちょっと疑問に感じたものの、
まぁ当時の状況からすればそんなことにわざわざ気を張るような余裕もなかった。



私「あ、どうも。」

彼「あぁ。」



と、なんかお互い緊張感丸出しの出だし。まぁそんなもんだとは予想してたけどね。
当然のことながら目なんて見て話せるわけがない。常識外れと思われたって仕方がない。
というか空気を読め、空気を。こんな状態で社会のマナーを守れるわけがないじゃないか。

第一印象としては…なんだろうね。やっぱり背が大きいってことぐらい?
印象というか当たり前のことなんだけどさ。
印象をもらうまえに緊張して何もかも吹っ飛んでしまった感じ…
女子高に入ってしまったわけなので、同年代の男子と並ぶなんて経験を自ら断ってしまった。
うーん、実際の生活で男子と話すだなんてどのくらいぶりなのだろうかというレベル。

声の感じとしてはスカイプで話してた時とさほど変わりはしなかった。
(変わってたら変わっていたで困るんだけどさ。)



私「その袋なんですか?」



と、持ってきた黒い鞄の他に彼がコンビニの袋を持っていたので尋ねてみた。
彼はコンビニの袋を見つつ、



彼「朝ご飯。電車の中で食べようと思ったけど食べられなかった。」

私「すごいですね。あの雰囲気の中で食べようとするなら。」

彼「確かに…」



あっちでは普通に食べられる雰囲気だそうですよ(知らないけど)。
電車の中で飲み食いか…普通の電車は知らないけど、地下鉄だとそうはいかない。
別に朝ご飯食べるんだったら遅れてきてもいいのにということを言ったら、
やっぱり遅刻したくなくってさという答えが返ってきた。律儀だなぁ、全く。

私が最初に降りた階段を通って、広場にあるベンチに座る。
とりあえずご飯は食べてもらわないと困ってしまうので。(´・ω・`)
彼がご飯を食べている間、私は彼が持ってきたものを少し見せてもらった。
退屈すると悪いからという配慮なのか、見せたかったのかは知らないけど。

まず出てきたのは関数電卓。話には聞いていたけど、なかなか便利らしい。
使い方が分からない私の横で、食べながらボタンを押して計算を披露してくれた。
ご飯中なのにすみませんね、手のかかる子で…
とりあえず便利ということだけ分かったからよしっ!(蹴

次に出てきたのは…何かの袋?
そういえば前日にデパートに行ってきたとか何とか言ってたっけか。
袋的にもそれっぽかった。
何を買ったんだろうと見せてもらうと、箱に入ったクッキーとハンカチだった。




彼「クッキーでも買っていけばと言われたんだよ。」

私「へぇー、誰に?」

彼「え、○△さんw」

私「○△兄wwwww」



2人の共通ネタ・○△兄。これは今でもそうだと思う。
私がいない間にそんなことをアドバイスされていたらしい。
それにしてもクッキーか…○△兄の意図していることがよく分からない。
まぁ何かしら買っていきたいという気持ちは理解できなくもなかったけどね。

ハンカチのほうは…なんだか閉店セールだかで安かったみたい。
青い色のなかなかセンスのいいタオルハンカチだった。



彼「これあげるよ。」

私「いやいやww」



ハンカチを差し出されて素直に受け取れない。
いや、嬉しいんだけどやっぱり初対面の人だしさ?悪いかなって思ってしまって…
そう簡単には受け取るような人じゃないんですよ…可愛くないんです。(´・ω・`)
とりあえずその場はもらわないで切り抜けることにした。

彼が朝ご飯を食べ終わったので、当初の目的地の科学館へと向かうことに。
どうして科学館?…実は今でも分からない。適当です、適当。
駅前に行かなければ何だって…という考えをしてたらこんなことに。
まぁお互い理系だから嫌ということにはならないだろう。結構面白いしね。
(こういう一致もあるから仲良くやっていけているのだろうか…)

さっき通った階段をまだ戻り、今度は別の出口から外へと出る。
夏休みのせいか、人はあまりいない。道路もそこまで車は通っていなかった。

大阪の人だったら真っすぐ渡るね、という話を彼がしていたのを覚えている。
ちょうど科学館があるところ、道路のが向こう側だったんだよね。
信号のないところでも車が通っていないと反対のほうまでそのまま突っ切るらしい。
なんて命がけなんだ…都会の人ってめちゃくちゃハードなんだね。
まぁ確かに、信号待つのがバカバカしい時は遭遇するっちゃ遭遇するけど。
自ら突っ切ったりしたことはなかったから、そういう話を聞くと驚いたね。
地域ギャップというやつ?まぁ興味深かったよ。

そんな話をしていると、あっという間に科学館に到着。
入場料を足早に払い、見学が始まった。

脇のほうの道にあった電気の機械なんかを見たり。
仙台の地形についてのビデオをつったって鑑賞したり。
原寸大のマンモスの模型や、化石や、地層。
とりあえず前半は結構地学や生物的なものを中心に見てた。
お互いそっちの方面の学生ではなかったんだけど、
何かしらそういうことについて口を挟んではしゃべってた。

今度は物理や化学の展示がされているところへ。
こんな実験器具見たことあるっ! これはあの法則だよね。
きっとこうなっているからこういう現象が起こるんだよ。
こんな元素知らないなぁ… へー、こんな現象があるんだ…
流石に高校での知識があると、見方が違う。
この歳になって気がつくことというのもだいぶあるもんだね。
なかなか興味深い装置なんかもあって、一通りいじりながらまわっていった。
心拍数に合わせて揺れる振り子とかもあったね。
朝の時点で試してたらとんでもないだろうなぁ…とか思ってた。
なんか…香料(?)を持ち帰れるようにしてくれる機械もあった。
(実は最近その存在を思い出したんだ、うん。一応持ってるよ。)

一通り勉強色の強いフロアを見学し終わり、下のほうへ行って見ることに。
夏休みということは、結構子供たちがいるという証拠でもあるわけで。
特に下のフロアは遊びながら学ぶ、という色が強いのか人が上よりも居た。
子供たちが無邪気にはしゃいでいろんな体験をしたり、見て回っている。
可愛いなぁと思いつつ、やっぱりそういう知的好奇心は大事だと思った。
とりあえずここも漏れがないように歩き回ってみた。
最も子供たちに混ざって何かをしようとは思わなかったから、
そうそう意味のあることをしたかと言われたら微妙ではあるけれど…
でも、やっぱり何かしら彼とは話してた。
正直こういうネタでしゃべるのはどうなんだろうと何度も思ったわけだけど、
それなりに楽しいこともわかったし、彼も満更でもなさそうだったからいいのだ。
ネタが、ではない。きっと人が重要なんだと思う。

それからさらに下に行ってあまり意味がなかったりとか、
雑誌の置いてあるところで一緒にそれを見て話したりとか、
科学館内にある小さなお土産屋さんなんかにも足を運んだ。
そうそう、公園のほうを見れるっていうテラス的なところにも行ったなぁ。

さぁそろそろ出ようか、ってなった時に時刻はお昼すぎをまわっていた。
つまり科学館で3時間は過ごしたことになる。



私「3時間もいたなんて信じらんないねぇ。」

彼「おかしいっしょ。」



通話の時間がいつも短く感じるのと一緒。
一緒どころじゃない。会っている時のほうがもっと早いのではないのだろうか。
そのぐらいの感覚で過ぎていってしまっていたんだ。ほー…
確かに予想していたとはいえ、実際に体験してみると驚くものだ。

さぁこれからどうしようと言った時、とりあえずもとの場所へは戻ることにした。
科学館を出ると外は少し暖かくなっていた。でもやっぱり夏の割には過ごしやすいのに変わりはない。
ここまで来ると、しゃべるのにもだいぶ抵抗は無くなってきたのかな。

歩いている途中、何回か手と手がぶつかったんだよね。
あっ、と思ってその度にちょっとドキドキしてた。
気分的にはこのまま繋ぎたかった様な気もしたけど、流石にそんなことできない。
まだ会ってからちょっとしか経っていないわけだし。
それに、思いが通じ合っているとしてもまだ恋人ではないわけだ。



(どう、なのかな…)



俺は直接会って告白したいんだ、という彼の言葉が脳裏をかする。
でもそれは会って見てやっぱり好きだからという話なわけで…
今までの流れからしても、嫌われているという感じはしない。
不安になってしまうものはなってしまうものだから仕方ないのだろう。
うん、きっとはっきりさせてくれる。彼を、信じてみようと思った。

最寄りの地下鉄の駅前まで戻ってくる。
どこ行くあてもないので、何回も降りている階段を通って公園へ行くことにした。
お昼ご飯?そんなの無視に決まっているじゃないですか。
(どうも会っている時にお昼を食べないのは通例らしいです…)
公園内では若干人が見受けられた。だから何だって話なんだけどさ。

どうしようねーと優柔不断な会話をしつつ歩いていると、右側に階段が見えてきた。



彼「なんだあの銅像はww」

私「確かにww」



かなり大きな階段の中央付近にそびえたつ、なんだかよくわからない銅像。
こればっかりは妙に印象がある。インパクトはあったんだけど、何故だかはよく分からない。
インパクトにつられて(?)階段を登ることになった。
なんだか登った先には広場があるとか何とか。
ベンチとかがあったら休もうか、なんていう会話をしていた。

結構長い階段を登りきった先の景色は…なんと駐車場。
広場じゃないじゃん、ってつっこんでたね。その通りですとも。
その隅のほうに木陰を伴ったベンチがあったので、そのまま2人で腰かけた。
お昼ご飯を食べない代わりだと、彼がクッキーを差し出してきた。
消費しないと荷物になるからと言われ、お礼を言ってクッキーを受け取る。
口の中の水分が奪われるなぁとか言う彼を見て笑ってた。

クッキーを食べた後は朝の続きで、彼の持ってきたものを見る流れに。
センター試験のリスニングで使うICプレーヤーを2人して聞いたりだとか。
結局朝にはもらわなかったハンカチは、ICプレーヤーと共にありがたく頂戴することに。
(俺が持っててもしょうがないじゃん、とか適当なことを言われたw)
今は懐かしい彼が高校時代の時のテストだったりとか。夏休みの地獄のバイト日程だとか。
気前のいいことに定期やら財布やらも見せてもらっちゃったり。
いろいろつっこみたかったけど、それなりには会話もしてたので何も言うまい。
(今だったらつっこむかな…いや、多分そんなことはないと思う。)

手持ちのネタ(?)が尽きても、スカイプで話している時のように自然と会話にはなっていた。
普段の生活ネタだったり、スカイプでのネタだったり、はたまた勉強ネタだったり。
本当に初対面だったし、ちゃんと話せるかどうかも不安ではあったからひとまず安心。
むしろ会話が止まっているほうが少なかった勢いだった。
会っても会わなくても話していることやそのテンポは何1つ変わらない。
だから、尚更不思議な気分になったんだと思う。



私「本当に来たんだねぇ。」

彼「そうだね。なんか不思議だ…」

私「うん、それは思う。ネットから飛び出て来た感じがするもんw」

彼「そう思っても仕方はないねw」



彼が今、本当に目の前に実体となっている。
別に本当の人間なのかと疑ったことがあるわけじゃない。
だけど、そういう感覚に陥ってしまうのは…自明の真理?
今までパソコンという機械を媒介してしか通じ合えなかった存在だったのだから。
パソコンと現実とのギャップというものはやはりあるわけで。
生の会話というものはやっぱり意味のあることというか、
無機質なものを通さずに直接というのは躍動感がある気がする。

それはそうと、彼はなかなか目を合わせてはくれなかった。
ふと視線があると彼が真っ先に逸らしてしまう。恥ずかしがっているのがすぐ分かった。
おかげでこっちは見られることなく彼の顔を見ていられたけどね。
確かにじっと見られたら私も逸らしちゃうだろうなぁ…

なんとなく、本当になんとなくだったんだけど。
彼の手をとって観察する。なんで観察したかっていうのは忘れてしまった。
流れからからだったかもしれないし、上のように本当に成り行きだったのかもしれない。
あったかかった。あぁ、本当に目の前にいるんだなって確信。
別に立体映像ってわけじゃないよw そういう風に実感できたって話。
お互いの距離が無くなった初めての瞬間だったのかな。
流石にずっと触っているのは自分で危ないと思ったのですぐ離した。
その流れでドキドキするような会話が続いていく。



彼「どうなんですかw」

私「ん?」

彼「こんなんですよ、俺。」

私「いいじゃないですかw」

彼「wwwwwww」



もうお互いの思いは決まっていたんだと思う。
確かに目の前にいる人は、ネットで出会った人なんだって。
騙しても騙されてもいない。これは現実のことだった。
でもあと1歩が踏み出せない。幸せ、だけどもどかしい時間だった。
だけどそんな時間も悪くなかったね。結局、彼に会えただけでもよかったんだから。

何を思ったのかは分からない。自分でさえも、だ。自分のことなのに。
ふいに彼の左腕にしがみついた。ギュっと力を込めて。
あぁ、やっちゃったなって思った反面、そこまでの抑制が出来なかった。
彼の口から聞くまではしてはいけないんじゃなかという考えがどこかにあったのに。
そんな考えをどことなく無視をして、私は彼との距離を縮めた。
1回触れてしまうと離れたくなくなる。そうなることは分かっていた。
彼にくっついてドキドキしている自分がいて、やっとここで確信した。



(本気で好きなんだ、私)



心の中で呟く。答えなんて聞けるわけはなかったんだけど。
もうこの先、再び巡り合えるなんて思っていなかった感情が確かに芽生えている。
そう思える相手にこうして出会えたんだ。改めて遠距離の偉大さを実感。
言葉も出るほど余裕がなかった。目の前さえも、きっと見えていなかったんだと思う。
答えが欲しい。彼の答えが、口から。
もうきっと舞い上がっていたんだよね。答えはきっと私の望んだことなんだろうって。
分かっていたけど、彼はなかなか言えなかったみたいだ。
そういう雰囲気も伝わってきて、でも自分が言っては台無しだから何も言わないことにした。

駐車場に来る人たちにびくびくしながら、そうやってひっついたり離れてたりした。
彼が全く抵抗しないのでひたすら調子に乗ってた気がする。



私「いいんですか?」

彼「何が?」

私「こ、こんなことしてるのに…」

彼「いいんじゃないですか?」

私「えー、だってまだ友達…みたいなもんじゃん。」

彼「あははw…いや、うん、頑張ってるんだけどね。」



ほら、やっぱりそうなんだ。私の思った通りだった。
雰囲気で分かりあえるっていいよね、こういう時。
彼とはそういう分かち合いが出来るから気が合うんだと思える。

人によってはいい人だの空気読めない人など、いろんな人がいたね。
まぁ人がいてくれて正解だったと思う。ある意味自重ができたのかもしれないね。

そのベンチで2時間ぐらいしゃべってたのだろうか。
少し移動しようか、となってベンチを後にする。




――自分のせいで、過ごしやすいはずの気温が暑いくらいに感じた。







次回予告(?)的なもの。



    ――「やっとはっきりさせてくれたね。」

                 
                      
                          ――「何するか…分かる?」

    

――「これからも宜しく!」





ここが、私たちの本当の始まりだったんだ。




―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―* 
(09年10月10日 追加)

*ぼやき

何やら私の書いた文章が公開されてるようですね。
(それに気がついたのはごく最近)
てなわけで改めてご挨拶をば…

お読みの皆様、こんにちは。香邊真香です。
こういう風に長ったらしい文章を書いている張本人です。
わざとではないです、こうなってしまうんです、許してください。(蹴

このシリーズ(?)は4月頃から私が個人的に書き留めていたのですが、
その存在が彼に知られ、今現在こうして皆様に知られるといった感じになってます。
ノロケを見せつけたりだとか、そういう目的ではないのです。
そこは当本人が書いているようなのであえてここでは言いませんがね。
まぁ…事実が既にノロケである場合は見逃してください。

挨拶にもならない文章でした。引き続きお楽しみください。



続きはこちら↓

楽しい遠足の前日になんて眠れない(後編)

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