甘えたい時に甘えておけ、もったいないから(後編)

夢現、という言葉がある。
奇麗ですごくよく出来た日本語だなって、私は思うんだ。
何故かと言うと、まさにその二字熟語があてはまるような瞬間を体験したからだと思う。
もちろんその二文字に尽きるわけではないのだけれど。
あえてその時に名前を付けるとしたら、きっとこれが一番しっくりくるんじゃないかって。
目を閉じてぼんやりと思い浮かべる。はっきりとは分からない記憶。
私の頭を、顔を、体を、足の先っぽまでじんわりとした感覚が襲う。
不思議とそんな状態に虜になりつつも、はっとして止めてしまう。
(こういう時、あぁ私も人間なんだなとかどうでもいいことを思う。)

それが夢なのか現実なのかと問われれば迷ってしまう。
そのぐらい、今を忘れてしまうほどの衝撃があった。
現実が現実に感じられない。それは…2人で描いていた夢だった?
まさか、2人して同じような夢なんてどう足掻いたって無理。
何度確認しても間違いない。それは現実のことだった。
頭の中に何度も反芻されていく記憶は間違いじゃない。
夢のように儚くて、でも現実のように確かなぬくもりがある。
頭、目、耳、鼻、口、胸、腕、足…
全て自分のものなのかと疑ってしまいぐらいに。
虚ろな目をのぞかせて、呼吸を合わせ、私たちは時を共にする。
結ばれた両手の暖かさに依存を覚えた瞬間。
普段見せることのないお互いの姿に、いつしか罠に落ちていたのかもしれない。


何もかも捨て去った果てに何が待っているのか。


それは、今も分からない。

だけど、そこにいつか届いたらどんなに素晴らしいことなんだろう。
何にも囚われず、邪魔されず、貴方だけと結ばれるというのなら。

そんな夢を見ながら…
何か、私たちは超えていったのだろう。
誰に言われるわけでもない、自分たちの意思がそこにある。



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意識がはっきりしたのはホテルをチェックアウトする本当に直前。
仕方なく自分で自分の素敵な夢を終わらせることにした。
続きが気になって仕方がないけど、焦るわけにもいかない。
もう昼にシフトしていく日差しを浴びながら、彼を見やる。
どうも昨日飲んだ***が少し抜け切れていないなどと話していたが、
見た目的には普段通りという感じなのでよかった。(普段と言えた義理でもないか。)


それにしても、不思議。
起きて隣を見たら貴方がいるんだもの。


明らかに普通に生きていたら感じることのできない体験だと思う。
ちょっと恥ずかしくって、でもちゃんと隣にいてくれるのが嬉しくって。
こういう幸せを感じる日が来るなんて、1年前は思いもしなかっただろうな。

ホテルを出たのは本当にぎりぎりの時間だった。
起きてから出るまで僅か30分…早い早い。こういうところは無駄に早い。
間に会ったねぇ、なんて呑気に笑って歩を進める彼と私。
睡眠時間も上々。まずまず休めたほうなんじゃないかなってね。

予定は未定にして決定にあらず、とはよく言ったものだけれど。
私たちに予定なんてものは今まで存在などしなかった。
そんなこと言ったら嘘だけども、具体的に何をするかなんかはあまり決められるほうじゃない。
むしろそこら辺のベンチで座って語り合っているほうが性に合っているというものだ。
といいつつも、せっかく遠くまで来たんだからそれじゃもったいない。

…っていう件があったわけじゃないのですが、仙台城址に行ってみることに。
地元民だと絶対行かなさそうな場所の筆頭な気がしてならない。
そもそも何があるんだろうとか全く下調べすらもしていなかったのだから。
まぁこれが当たり前のことと化すのにそう時間はかからないのであろう。
行き当たりばったりのほうが楽しいじゃないか。そうでもない?(誰に聞いてるのかも分からない)

駅前に着いたらまずはコインロッカーへ。
流石に大きい荷物を持ち歩くのはめんどくさいのでね。若干遠いところでもあるし。
この時のお金はどうしたかなんて流石に忘れてしまった。人間の悲しいところだね、うん。
荷物を預けた後、目的地へと向かうバスに乗るためにバスプールへ。
この時バスまで頭に把握していなかった自分。そのぐらい調べておけばよかったな…(´・ω・`)
歩いている間に携帯で調べてみる。まぁなんとなくは分かったから、その辺まで行く。
それでも迷ったので、彼がバスの運転手さんに聞いてくれた。本当にこういう場面では助かってますっ。
あっちからバスが出るよ、と共にあの運転手さんなまってたと少し気持ちを弾ませて言う彼。
きっと秋田とか青森とか行ったらもっとびっくりするんだろうなぁって、そんなことを考えていた気がする。

教えてもらったバスは思ったよりもすぐ来た。乗客はそんなにいない。
2人がけの席に座ってみた。こういうちょっとのことでもなんか嬉しくなってしまう。


 普段の生活で、隣にいたらなぁなんて思うことは何度だってあった。


そんな願いがかなってるんだ…なんか、不思議な感じ。
単純に嬉しさだけで述べられるような気持じゃないところが難しい。奥深いと言うべきかな。

発射したバスは街中を走り、山を登っていく。
景色を見ながら雑談。途中からは手を繋いでた。
何気ないことが、こんなにも楽しいだなんて思っていなかったよ。

やがて景色は本当に山の中へと変わり、なんだかよく分からないところで降りた。
(目的地のバス停が辺鄙なところにあったと言うほうが正解なんだと思う。)
なんか微妙なところだなぁと辺りを見回す。…思いっきり道路ですけど、ここ。
とりあえずは目的地があるであろう方向へと歩みを進めることにした。

ちょっとした看板やら目印やらを頼りに…そこまで頼りにはしていないけど、とりあえず着いた。
うーん、あんまり城の跡とは思えないところであるのが第一印象。
でもなんとなく由緒ある雰囲気ではあったね。そりゃそうか…

ここで彼がデジカメを取り出す。昨日は夜景を撮る以外ほとんど使わなかったね。
使う場面を探せと言うほうが難しい一日だったもんだから。
とりあえずデジカメに写らないように頑張ってた気がするw
使う神経が間違ってるって?私もそう思いマス…
そんな心配がいらなかったのかそうでもないのか、彼はしっかりと写真を撮っていた。
なかなか立派な入り口の門とか、赤い小さな橋だとか。
まぁとりあえずネタ(?)になるものには随時シャッターを切っていた。

なにやら順路らしきものが存在するらしく、とりあえずそれに従って見ることに。
門をくぐって歩くと目の前にお参りするところが見えた。とりあえずお願いごとをしてみる。
何お願いした?って聞かれてはぐらかす。だって恥ずかしいじゃん、こういうのはミステリアスなほうが楽しいよ。
(その数十秒後に彼のお願いことを聞いて結局恥ずかしくなったけど。)

涼しい風の吹く…というか、無駄に風の強い中を道順たどっていたつもりが、順路らしい順路を見失った。
ちゃんと順路はこうですよってデジカメで写真も撮っていたのに…なんていい加減なんだ。
そんなことで怒りはしない。正直どうでもいいや。とりあえず歩いてみよう。
順路を終えた(?)ところで、道を変えて今度は広い場所に出た。
なにやらすごく景色のいいところだ。展望台とは言わないけど、なんかそんな感じ。
仙台の街がよく見えるところで、あぁ、仙台って都会なんだなと思わせるような景色だった。

今度は近くに会った建物に入ってみることに。
そこは無人の資料館と言ったところだろうか。
資料館と言っても、そんなに詳しいものでも何でもない。
とりあえず1通りには目を通す。彼がパンフレットをかっさらってたw

建物を見て、もう1度眺めを見通してさぁどうしようとなった。
さっきのところまで戻ってみようか。相変わらずそういうところは適当なのである。
入り口付近まで戻ろうとしたところで、お土産屋さんを発見。ちょっと立ち寄り。

仙台の名産品のお土産屋さんといったところであろう。
でも仙台城址に関係があるものが果たしてあったっけか…まぁそんなもんなのだろう。
こけしとか普通鳴子あたりのもので関係ないはず。ローカルなネタだ、これも。

お土産屋さんから立ち去り、特にやることもなくなってしまった。
とりあえず下ろうかという話になって、時間もあるので歩いていくことに。
(バス代の節約にもなります。こんなところで節約してもって話だけどさ。)

山の上までバスで登ってきたものだから、当然最初は急な坂が続いた。
手を繋いで歩行者用の道を歩いていく。
柵をまたいで車道には車が走っている。なんだか柵が頼りないと思ってしまった。
やがて車道から脇に逸れる道が見えてくる。ここを下ると博物館付近に出るらしい。
まぁ車道を通るのもあれなので、ここは脇にそれることにした。

道に逸れると、車の音が遠くに木霊するように聞こえる。
それだけここが静かだということだ。
異様なぐらいに静かで、別に誰に見られているわけでもないのに威圧感を感じた。
風が、迎えを装うように奏でる森とのメロディだけが妙に耳奥でうずいていた。

急に、本当に急なことだった。
私はふいに歩みを止めた。足が、何故か動こうとしない。
その正体をなんとなくは知っていたけど、まさかそうなるとは…

どうしたの、隣にいた彼が首をかしげて私のほうをみる。
私は彼のほうを見やる。彼はしたたかに笑っていた。いつも通りの彼だ。


 その顔が愛しくって、そして憎らしい。


繋がれた手はいつかは離さなきゃいけないことぐらい、分かってる。
だけどどうだろう。その瞬間、私は私で居ることが出来るだろうか。
そう考えている私を、彼は知っているんだろうか。…いや、知らないんだろうね。

どうして足が動かなくなってしまったのかは自分でも分からない。
止まろうという意志があったからとしか思えないけれど、はて、事実はそうなのか。
誰も通らない森の中。道の真ん中に彼と私しかいない。
あぁ、もしもこんな世の中であったら。
それこそ何も止めようとするものは存在しなかったに違いない。

さわさわと森が問いかける。優しい響きだ。人間とは違う。
真っすぐに彼を見て、それから背中に手を回した。
彼もそれが当たり前のようであるかのように、受け入れた。
どんなロマンスなんだろう。どこかのドラマにでも出てきそうな1シーンな気分。
寒い風の中、僅かながらに感じる温もりにどうしても触れていたかった。

そうして長いこと抱き合って、彼は自分の体から私を離す。
行こうか、という合図であることは私も分かっていた。
私の足は今度は言うことを聞いて動いてくれそうだった。


 森はきっと、この事実を忘れずにいてくれるだろう。


急な坂道を下り終えると、仙台市博物館が見えてきた。
確かに、山を降りた麓にあることは知っていたから、道は間違えてはいない。
(そもそも迷うような道のりでもなかったけれど。)
博物館の大きな建物の脇には、私も知らなかった和風の小さな建物が目に入る。
こんなのあったんだ…博物館には何回か来たことはあるけれど、
流石に裏のほうまで入ることはなかったから新たな発見だったと思う。

とりあえずデジカメに収めて、中に入れそうだったので入ってみることに。
なんか…豪邸の庭を縮めたみたいな、そんな感じ。
建物自体の雰囲気も昔ながらという感じで気に入った。
これ座っても大丈夫かな…とちょっと不安になりながらも、せっかくなので縁に腰かける。
座って見る景色も味があってなかなかいい。ちょっとだけお金持ちの気分が分かった。

博物館の裏側にはめったに人は通らないらしい。
そのせいもあってか、異様にくっついてぐだぐだと話していた。
私が彼に寄りかかって、彼が私を抱きとめている感じに。


 建物の雰囲気のせいなのか、良く分からないけどぼんやりとした未来の話。


お互い大学生になって、大学院に入って、就職して…
その過程で、やっぱりどこかで近くにいれたらいいなっていう共通の思いがある。
ずっと、こんな距離を隔てているわけにはいかないんだ。


時期が来たら、一緒になれるかな。
出来ればそうしたいね。


まだ憶測でしか話せないことなのだけど、決して暗いものじゃない。
暗くなんかさせない。苦しむのは離れている時だけで十分だから。
今、いっぱい苦しんだ分未来に2人で笑っていられるなら…それで、いい。


 まだどうなるかだなんて、そんなの私たちには分からないけど。


…結局何が決まったとか、そういうわけじゃない。
やっぱり1つの雑談でしかなかったのかもしれない。
それでも話を持ち出してしまうあたり、お互い意識はしている。
まだ先とは言え、成すべき重大な決断が迫っているのだから。

そのままそこに2時間ぐらいいたのだろうか。相変わらず時間の使い方はすごい。
別に意識しているわけじゃない。時計を見ると本当にそのぐらい経ってしまう。
楽しい時間は本当にあっという間なんだ。どうしたって逆らえないのだけれど。
話も一段落したし、考えてみれば朝から何も食べていない。
早く駅前に戻ってご飯でも食べようか、と決まって駅のほうへ歩き出す。
途中バスに乗って帰ろうとしたんだけど、人がいっぱいだったので諦めた。

山の中から駅前までということは、かなりの距離を歩く計算になる。
休憩をはさんだとは言えやはり体には負担が大きかったのだろう。
駅まで伸びる大通りを歩く彼が顕著にその影響を受けていたように思う。
大丈夫、と聞いても大丈夫だとは返ってこなかった。
風邪引いたかな、なんて呟く。
こんなことだったら無理矢理にでもバスに乗ったほうがよかったかもしんない。
内心後悔しながら、心配そうに横を見ていた。
夜行バスであまり寝ないで来てくれたし。朝から飲まず食わずだったし。
いろいろ無理しているはずなのに、何も文句なんて言わない。

 ごめんね、そしてありがとう
 心の中でそう呟いた

ゆっくりと歩いて、やっと仙台駅に着く。
荷物持っていかなきゃね、と声をかけるとよく覚えてたね、と言う彼。
どうやらすっかり忘れていたらしい。危なかった…

若干重くなった体になり、まずは何は問わずにご飯を食べないと。
歩いている中の会話で牛タンに決まっていた。
なんだか帰る日の夜は牛タンだと決まってしまいそうな風習であるw

場所は前と同じお店。時間帯も4時ぐらいと、そんなに変わらなかった気がする。
今回はお互いどっちも同じメニューだったけどね。
半年前も来て食べてたんだよねー、なんて懐かしい話をしていた。
無事にこうしてまた会えているのが無性に嬉しくなった瞬間。


 それと同時に、悲しくもあったんだけどね。


ご飯も食べ終えて雑談も相応、店を後にした。
今度はいつここに来れるんだろう。分からないけど、またの機会を楽しみにしてる自分がいる。

これも恒例になっているのかそうでないのかは分からないけど、プリクラを撮りに行った。
もちろんまた同じゲームセンターで。光景は全く変わっていない。
機種を選んで、写って、そして落書き。落書きは相変わらず適当なんですよ、これがw
ゲームセンターを出る時、彼が電車の写真を撮っていた。
これもネタになるんだろうか。ちょっと疑問に思ったけど、まぁいいか。
(注 電車は正直どうでもよかった、決して鉄道オタクではありません・・・by影)

外に出ると若干暗みを帯びた空が広がっている。酷く気持ちも沈んだ。
時計は6時過ぎを指している。あと1時間30分…
この時間がどれだけ短いことはよく分かっている。分かっているからこそ、辛い。
それでも歩みを止めるわけにはいかなかった。

向かった先はマクドナルド。外は風が吹いて寒いので、ここで若干時間つぶし。
店内のカウンターっぽいところに席を陣取った。
驚いたことにコンセントがある。最近のお店って進んでるのかな…
彼は注文してくると言って席を立つ。その時間さえ惜しいと感じてしまった自分はそろそろ末期かもしれない。

彼が自分の注文と共に私の分の水をと差し出してきた。お礼を言って受け取る。
座ってからというもの、私は必死に泣きたいのをこらえつつ手を繋いでいた。
なんだか近くの人にぶつぶつと文句を言われているようだけど、気にしてられない。
きっと同じ状況だったら…皆こうなると思うから。
この時は何を話していたんだっけ。弱音かもしんないし、お礼の言葉かもしんないし。はたまた違うことかもしんない。
でも、お互い確実に余裕をなくしていたことは確かだった。
沈黙の時間を埋める言葉が見つからない。
別に気まずいというわけでもなかった。それすらも感じ取れなかった。
時間は刻々と期限を知らせる。お別れまで、あと30分となった。

マクドナルドを後にして、コンビニで彼が飲み物を買った。
これから彼はまた疲れる旅に出なければならないことを考えると、すごいなって思う。
私はこれから家に帰って1時間もしないうちにばたりと倒れこむことが出来るのに。
寒いからこれで温まりな、と差し出してきた暖かいペットボトルに入ったミルクティ。
いつもだったらそっちが温まりなと拒否するところなのに、私は意外と素直に受け取っていた。

彼が乗る夜行バスが止まる場所までそう遠くはない。5分ぐらい歩いて着いてしまった。
時間はあと20分ぐらい。確認したくないのに、しなければならないだなんて酷いや。
寒いね、なんて言いながら目の前にある予備校の看板に逃げてみる。
少しは風よけになるのではないかという配慮。…もあるけれど。
本当の理由は、きっと歩行者側から死角となっているからであったと思う。

看板の裏側で荷物を下ろし、お互い座りこんだ。
私はペットボトルをおいて、彼と手を繋ぐ。
驚くほどに冷え切った手だけれど、かすかにそこには何か温かいものを感じた。
すっかり暗くなったこの空間。そういや前もこんな感じだった。
次はいつ会えるかな、それまで頑張れるかな。
なんていろいろ考えていたら、またもや泣いてしまった。
あぁ、今度も泣かないでお別れが出来なかったなぁと思いつつ、彼から手を離して涙をぬぐおうとした。
正確には顔を見られたくなかった。みっともないって思われたくない。

だけど、彼は手を離そうとはしなかった。
それどころか自分のところに引き寄せて、私の顔は彼の胸あたりにある格好となる。
さらに泣きそうになってしまったけど、こらえる。


 駄目だ、これ以上は自分がどうにかなってしまいそう。


8月よりもずっと大きな気持ちが動いていた。
半年間の我慢が一気に来たという感じ。そしてこれからまた我慢しなければならないなんて、辛すぎた。

残り時間はあと10分。
座っていた彼が急に痛いと言いだしたのでびっくりする。
どうしたのと尋ねたら、足を攣ったとの回答が…内心笑ってしまう。
少しだけ気持ちが落ち着いた。
攣った右足を伸ばしてあげると、ちょっとは楽になったみたい。
きっとこれも疲れちゃったり、寒かったりする影響なんだろうな…

そろそろ行かなきゃ、彼が立ちあがるので、続けざまに私も立つ。
これが本当に、今回最後である。…お別れ、か。
彼を見る私の瞳は既に濡れていてよく分からない。
もう1度だけ、彼を確かめたくなって抱きつく。ありがとう、ありがとうって何度も思いながら。
きつく抱きしめてくれたのがすごく嬉しかった。あのままずっとそうしてくれたらよかったけれど…
顔をあげて、本当に自然な流れでお互いの距離が縮まる。そのまま、唇が触れた。
ここも冷たいぐらいだったけど、それでも無我夢中で存在を感じ合っていた。
それを2回ぐらい、今までで一番長くて一番切ないキスを交わし合う。
ぎゅっと、体を寄せ合い、…そのまま離れてしまった。
これで終わりなことが分かっているのに、体は求めていて仕方がない。


 でも、耐えなきゃ。彼も辛いんだから。


行くよ、そう言って荷物を持ち、彼は立ち去って行った。
彼の背中にさようならと呟いて、そこから私は泣いた。
少ししたら声も若干出していたかもしれない。もう何もかもぐちゃぐちゃだった。
座りこんで涙をぬぐって、必死で気持ちを落ち着かせようとする。


 いつまでもここにいるわけにはいかないのだ。


とりあえず、本当にとりあえずなんとかなったので、荷物を持って看板から出る。
彼の乗ったバスが目の前にあった。
せっかくだから、バスを見送ってから帰ろうと思い、そのままバスを眺めていた。

7時30分になる。だけど、バスは発車しない。どうしたのだろう。
誰かまだ来ていないんじゃないかな。多分そんな感じなのだろう。
程なくしてバスから2人の女の人がバスから降りてきた。乗客だってことは分かる。
ああやって彼も降りてこないかな、なんて。そんなこと、するわけない。

数分してもバスが発車する気配はなかった。
携帯には彼からのメール。車道側に座ってるから、そっちは見えないと書いてある。
それと同じぐらいに親からの催促メール。残念ながら、バスを見送ることは出来なかった。

地下鉄の駅へと向かう地下通路を歩く中、ここ2日のことが頭の中を過る。
本当に楽しかったと同時に、やはりさっきの反動がまだ抜けきっていない。
いつになったら泣かないでお別れできるのかなぁ…
(それが意外と遠くにあることを予想していたのかどうなのか…)


3月にしては寒い風の吹く仙台で、半年ぶりの再会はこうして果たされ終わっていった。








次回予告的なもの。

「…本気で言ってるの?」

                ―「展開早いよなぁ…」
 

 「1か月ぶりだね。」


―まさかこんな展開になるなんて、誰も予想してなかっただろうに。




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*ぼやき

疲れた時には甘いもの。どうも皆さん、香邊真香です。
今回で2回目の出会いについてご覧いただけたと思います。

読み返してみると、やっぱり恥ずかしいです。これ何ですか…
特に今現在これを書いている時点では、会った時に私が泣く確率は100%です。
なんというひどさ…こんなの知り合いに知られたら恥ずかしさで死ねそうorz

序盤は物腰柔らかな文章に挑戦してみました。
自分では非常にぼやかしたっ。何がとは聞かないでください。
皆さんのいたいけな妄想の力を使ってニヤニヤでもしておけばいいですよっと。
…ここに余計なことを書くからいけないんですね。

あまり文章の上達しないやつですみません。
これからもどうぞ御贔屓に…ではでは。


続きはこちら↓

これだから人生は面白い(前編)

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