無茶してもやりたいことがある(後編)


今回で会うのは4回目。夜を共にするのは3回目。
慣れる慣れないの次元にはまだ早い気がする。
それでもお決まり、というものが存在はしそうなのである。
まさに今この混沌とした時間と意識に身を預けている瞬間がそうなのだ。
時に強く、時に熱く。相手に自分のコントローラーを握られているかのように。
錯綜する記憶に全てを委ねれば、たちまち自分の体は熱気を帯びる。
それは ― 彼も同様と言った感じだ。

時間にしてみれば夜中。何時何分かというところまでは知らない。
明かりの灯らない部屋で道しるべになるのは、淡い色のしたカーテンから漏れる光。
月光という神秘的なものではない。近くにある街頭という人工的な光だった。
それでも直接当たっていないので、あまりその点を感じさせてはいなかった。
うっすらとした視界に写る人影の表情までは細かくは特定はできない。
ふと、視線が交わる瞬間、心臓がとくんと跳ねる。
やや白い光に踊らされているように見えるその輪郭、表情を読み取る。
こういう暗い時には、瞳のまわりというのは大いに目立つものだ。
そのせいで、暗い空間に紛れてしまいそうな瞳までもがこの世界にはっきりと残される。
すなわち、顔ははっきり見えないが、目だけは開いているのか閉じているのかは丸分かりなのだ。



彼が、切ない声で私を呼ぶ。



掠れて、普通の人は発っしないような甘みをふくんだ声。
視線はしかと私のほうに向けられている。
その声に何度となく魅了され、体の奥深くの堅いところまで震わされてきた。
じんわりと熱をかけられるその感触に身を任せながら、私は目を閉じる。
ひょっこりといつしか心の中でも見られてしまうのではないのだろうか。
なんて思いながら、心の中で少し笑って見せる。
あぁ、もう笑う余裕も無くなっていくんだっけか…
彼の手からの温もりを直に感じた瞬間、無駄な思考はやめることにした。



今はこの瞬間を、精一杯感じていたいから…



・
・
・



重ね合っていた体に力を入れて、名残惜しさを感じながら時計に目をやった。
午前10時…相変わらず時間の使い方が半端ないことを物語っている。
(特にこれといって大変には思っていないところがまた恐ろしい。)
いつの間にかおぼろげに記憶の残っている淡く白い光は、
昼間にふさわしいような黄色がかった少し強い光に変わっていた。
たったそれだけなのに、部屋の中は驚くほどに明るくなっている。
電気をつけなくても相手の顔も、体も、全て認識できた。

と言っても、そこに官能的な意味合いを見出すことはなかった。
そこにはっきりと彼がいる。なんか、不思議な気分。
当たり前のことなんだけど、これって当たり前じゃないんだよなぁ…
昨日の今頃、新幹線に乗ってここまで来たことを思い出す。
4時間半で辿りつけるのは、私たちにとっては非常に短い時間のように思われる。
ただ実際には、新幹線で4時間半もしないと辿りつけないのと同じなのだ。
速い交通手段を使ってもここまでかかってしまう…
再び彼の体に身を預けながら、物理的距離を憎らしく思った。

今回は初めての試みであるが、ホテルに2日間宿泊することにしている。
過去会った中では1番長い…が、きっとこれもすぐに短く感じるのだろう。
彼がフロントに聞いた話だと、11時にドアに清掃をお願いする札をかけなきゃならないらしい。
つまり、だ。11時には少なくともここを出なければならないということである。
(清掃を希望しなかったら別にいいんだろうけど、やっぱりそこは流れに乗るということで。)

相変わらずのぎりぎりな時間まで身仕度をして、部屋を出たのは11時ちょっと前。
こういうところは相変わらずなのである。お決まりなんだろうね。
ホテルから出たら、もう汗ばんでしまうような天気だった。
どこまでも澄んだ青に染まった空を、白いペンキバケツごとひっくり返したような雲が覆う。
風はそこまで強くないせいか、雲もゆっくりと暑い空気の中を泳いでいるようだった。
そのおかげか、真夏の日差しは幾分か和らいでいるような気がした。

今日の予定はというと、かなりアバウトな設定である。
とりあえず日本橋に行ってみようか。いったいどういうところなのか知るのも…
道頓堀とかもあるね。あー、昔行ったことあるかもしんないっ。
…という、ちょっとは訪れてみたいところを並べただけの簡潔メニュー。
少なくともこれは事前に話題に出ていたところなので、特に気にしてはいない。
観光、と言うにはちょっと違うような気がしなくもないがいいだろう。
(もうちょっと計画しろとそろそろ石を投げられそうな雰囲気だ…(´・ω・`))

お決まりの新大阪駅から、今回初めて使う路線に乗ってみる。
駅名が読めない…地方の名前って面白いものがあるからいいものです。



彼「これ、読める?」

私「知らないww」



こんなやり取りばっかりです。
近くにいる人じゃないと分からないものが案の定いっぱい…
こ、これは別に学力が低いとかそういう問題じゃないよねっ!?
そう信じたいところです…信じたい…(´・ω・`)

がたんごとん、と電車に揺られながら景色を堪能。
あれ、これって地下鉄だよね。地下じゃないじゃんっ!
安心してっ!こっちの地下鉄も地下じゃないからっ!
…いちゃもんつけても何も起きません。本当に。

地下鉄とあって駅の間隔は短い。それはこっちと変わらないらしいね。
目的の駅に到着。最初は日本橋のほうに行ってみることにした。
日本橋のイメージというと…聞かされているように…メイドさん、である。
その前までは橋というんだから、なんかどでかい橋があるのかと思っていた。
(思考回路が本当に単純なんです。許してあげてくださいね。)

地下鉄のホームから降りて地上に出た感想。
…おー、なんか、道が碁盤見たい?(何故
見た目は普通の商店街?電気屋さんが結構多い気がする。
秋葉原と同じ系統なんだろうか…まぁよく分からないけど…

彼の後にとことこと付いていく。
と、今まで普通のお店だったのに、一角に萌え系のお店がああ…
…ネットで知り合ったお友達が働いているところを見せてもらったんです。
本当にあるんだ…こんなところに…
いや、こんなところになかったらいったいどこにあるんだよって話だけども…
こういうお店を一目見ると、全ての世界ががらんと変わってしまうみたいです。

なおも歩いていると、何故か可愛い声のアナウンスが響き渡る…
どんなサービスだろう。なんか、復興キャラとかなんとか言ってた気が…
住む世界が違う。ここに来るのはやはり1回でいいだろう。

もう少し奥の方へ進んでいくと、光景が全く違うものに…
大きなビルに大きな看板。まさしくオタクの聖地。知らないけど。
おどおどしながらも写真撮影。こ、これも記念さ…あはは…(遠い目)

ここで朝ご飯がてら、彼がたこ焼きをおごってくれた。ごちそうさまです。
熱々のを頬張るのは通ですね。熱すぎて火傷するのもあれですけど…
たこ焼きを買ったお店の中で座って食べたんですが、壁に貼ってあるのは何故か地図ww
…壁の穴でも修復したかったんだろうか。年季入ってるし…(こら

たこ焼きはおいしくいただきました。もう1度ごちそうさまです。
尚も探険は続きます。奥に行くに従って、メイド系のほうが増えていく気が…
チラシを配るメイドさんもいたよ。あんな恰好しても怪しまれないのがいいですね。
メイド系といってもいろいろあるらしい。
喫茶店だとか、マッサージしてくれるところとか…知らなかった。
可愛い女の子がマッサージしてくれるだなんて至福じゃないですかっ!
おいらは照れるから絶対してもらえないけどねっ!(あの
…その前に場違いですねごめんなさい。

明らかに動揺しながら進んでいき、とりあえず日本橋は抜けた。
次の目的地までは歩いていこうということに。そう話したのかは知らないけど。
歩いていく度に、人が多くなっていく…どうやら商店街のようだ。
そうか、今日休みだもんね…なんて当たり前のことを考えてた。
人ごみが苦手な私に声をかけてくれる彼。
歩きたばこも普通にいるから困る…けど、しょうがない。
頑張って息を止めて歩いていくしか、無事には行けなさそうだった。

道はさらに人の多いところへと続く。
なんとなく、高2の時に来たところと似ている…なんて話していた。
見覚えのあるような光景がちらほらと見受けられる。
服が飾ってあったり、ゲームコーナーがあったり、食べ物屋さんも…
と言っても、ここは商店街の一部だから見間違え…かもしんない。

どこもかしこもすごい賑わいだなぁ…なんて思いながら進んでいくと、
目の前に大型のテレビジョンが見えた。…あれ、見たことあるぞwww
流石にあれは見間違えないから、きっと今通ってきた道は2年前に通ったところだ。
なんて彼に言って無駄にテンションがあがる私。意味が分かりませんね。

まぁそのおかげ(?)もあってか、人ごみもさほど気にせず目的地に到着。
おおー、グリコだ。めちゃくちゃ見覚えがあるぞ。
でも前は工事の関係でクリアに見えなかった。今回は見える。ちょっと嬉しい。
もちろん写真はちゃんと収めました。
私が写真を撮っている間、彼がお姉さんに写真を撮ってくれるように頼まれていた。
逆に撮りましょうかなんて尋ねられたんだっけか。断っちゃったけれども。

写真を撮った後、周りを見渡してみる。人、人、人…
…観光客というわけでもないだろうが、やはりここは人が集まりやすいようだ…

はぐれないようにしっかりと手を繋ぎ、とりあえず川沿いを歩いてみることに。
何だか小さい船に乗って大阪の街の案内を聞くみたいなものがあるらしい。
そんなものもあったんだ…それは初耳である。
まぁそこまで癒着するものでもないから、乗ろうとは思わなかったけどね。

商店街の中心を悠々と流れる川…そういやここだっけか。飛び込んだとかニュースになったのは。
結構大盛況だったような…そんなことを回想していた気がする。
少し歩くと、出ました。王道の「ドン・キホーテ」。
これって地域で変わるんだろうか、とか他に行くところもないし、とか
いろいろな事情が相重なったので、とりあえず行ってみることとなった。
お店の前には浴衣が並んでた…結構安い…
浴衣欲しいんです、浴衣。それでお祭り行くのが密かな夢。
でも、1人で行っても寂しいことぐらい分かってる…orz
それを母に指摘されてへこんだのは言うまでもない事実であります。

店内はいろんな物で埋め尽くされていた…そりゃそうだよね。
ここら辺の無茶さはこっちとはちっとも変わらない。
だが、お店の規模が大きいせいでいろいろありそうだ。これは楽しいぞ…
1Fにあったのがコスプレのあれとか18禁とかだったからまた面白い。
(そういや18禁のところって何があるんだろう…想像通りかな?)

カラフルな階段を登って、とりあえずいろいろ物色を開始してみる。
最初に目に飛び込んできたのは豆しばの人形やらグッズやら。
顔は可愛いくせして、下ネタまがいの豆知識を出すのはかなりのギャップ…
私の覚えるところでは、彼といる時には絶対聞きたくない豆知識が1つだけあった。
そんなことをぼそっと言ったせいで、結局彼の耳に入ることになったけど。(蹴
ねぇ、知ってる?キスをすると2億個の細菌が行き来するんだって。
…もう嫌だ。ロマンを壊さないでくれ。
冷静に言われたらそうなんだろうなーとは思うけれど…
なんて、冷静に分析する自分を呪いたい。

日用品からちょっと変わった小物まで、本当にいろいろあるもんだ。
見てる分には飽きないのでいいところです。
正直何を見たのかまでは覚えてないけどネ…
彼が服の値段を見て安いなぁなんて呟いてたことは覚えている。
あ、あともふもふのクッションがあったっ!
…こういう微妙なことしか覚えてないのも、自分らしい…

目ぼしいものは大体見終わったので、ここは去ることに。
最後にまた浴衣を見ていいなぁと呟く私がいるのだった。

歩いてきた道を引き返し、今度は道頓堀を歩いてみることに。
やっぱり食べ物屋さんは多いです。おいしそうですね。
お土産屋さんも繁盛してるみたいです。おいらは買わないけど。
そういや、偶然にもその日から食い倒れ人形が復活してたみたいです。
なんという奇跡…ちょっと感動して、2人して写真を撮る。

しばらく道頓堀をうろうろ…というか、ただ単にまっすぐ歩いていただけですがね。
実を言うと、彼も私も結構疲れているのが本音でございました。
なんでかって?そりゃ…いや、聞かないでくださいよ。
(夜に愛し合いすぎたんですね、恥ずかしい…)
そんなわけで、終始だるさが体に残りつつも歩き回る私たち。ある意味タフ?

お互い体の状態を申告。さぁどうしようという話になる。
何も考えずに歩いていたせいで、道頓堀から一転して少し人通りが少なくなった道を歩きながら。
若干怪しいお店の看板を発見してしまった。彼がそんなこと前から言ってたけど。
やってみないのw?なんて面白半分で聞く私。
やるわけないだろwと言う彼。ちなみにお互い空元気みたいです。

なんとなく体が重くなってきているのは気のせいではないみたいだ。
休みを求めるかのように、私たちの体は駅の方へと向かっていた。
はっきりとは言えないが、今日は多分これ以上動くのはしんどいだろう。
そう言った判断で、今日は早めに休むこととなる。
…けど、やっぱりもったいないなぁなんて気がしなくもない。
ちょっとした葛藤は駅のホームまで続いた。

…結局、だるさが勝ったので新大阪のホテルまで戻ることに。
駅は違えど、行きと同じ路線の電車に乗って帰る。
今日あまり外には出てないwwが、一応見るところは見たのでいいとしよう。
そういうもので満足してしまうあたり、自分は安上がりだ。

思ったより早く電車は新大阪に到着。
だが、すぐにホテルには戻らずにお昼ご飯はせめて食べてから帰ろうということに。
下手したら夕ご飯を食べないという状況にもなりかねないしね。
だるさはあってもお腹は空くらしい。人間ってどうなってるんだか…

駅構内にはレストランが結構あることに気がついたのもこの時。
お腹は空いているとはいえ、あまり量は多くなくていいから…
2人の意見は奇遇にも(奇遇と言わずに多いけれど)一致し、ワンプレートのランチがあるお店を選んだ。
なんか疲れたねぇ…とかしか言ってない気がする。多分それは嘘だけど。
運ばれてきたご飯はおいしかった。ハンバーグのランチだったっけな。
量も丁度いいのが嬉しい。苦しい思いをしなくて済んだ。(

腹ごしらえも早々、私たちはホテルに戻った。
ホテルの前にある安い自動販売機で飲み物だけは購入。
清掃されすっかり綺麗になった部屋につくや否やくつろぎタイムのスタート。
彼は綺麗になった部屋の綺麗な浴衣を既に着始めるし…
私は私で疲れたと言ってベッドをごろごろしだす。
横になるだけで大分違うという言葉を少しは実感したはずだ。

横になりながらテレビ観賞。これも当たり前っちゃ当たり前である。
…あれ、いつの間にか怪しい雰囲気が…こ、これもいつも通りかな?
テレビの音をBGMにしながら、じっと触覚だけを頼りに行方を探る。
ふと、目を開ければ真新しい白に包まれたベッドの上。
そこまで貧相な雰囲気を感じさせない部屋であることを、改めてそこで感じた。
まぁ…それもどうでもよくなってしまうんだよね。




・
・
・




私「…んー……。」



気がつけば部屋の中が暗い。真っ暗であった。
外からはごろごろと嫌な音がする…どうも雷のようだ。
体のだるさは抜けているものの、寝起き特有の頭のぼやけが妙に残る。
しっかりと目が部屋に慣れるのに、それだけで時間がかかってしまったみたい。
ぱちぱちと瞬きをして、暗さの中でもだんだんと今の状況を把握してきた。

私たちは結局あの後(?)寝てしまったんだ。
まぁ予想通りというか何というか…早く休むのが目的なのだから、別に悪いことはない。
(もう1つ気がついたことがあるのだが、もうこの際触れないことにする。)

私は今、体を横向きにして彼のほうにもたれかかっているという姿勢。
はて…こんな恰好で寝ていたっけかな。
確かな温もりを感じる先にいる人は、まだ寝ているようだった。

彼に寄り添うようにして寝ていた体勢を改め、上体を布団から起こす。
雷が鳴っているのは気のせいではないらしい。
窓には既に大粒の雨の跡がいくつも残っており、尚も刻まれている。
時にピカッと閃光を放つ空に思わず目を逸らした。

そのままベッドの頭のほうにある時計を掴んで、時刻を確かめた。
目を凝らして判断した時間は夜の9時。うーん、結構寝てたな…
…というか、むしろ夜はこれからじゃないか。ちゃんと寝れるのか不安になってきた…

とりあえず時刻を確認する以外に目的もないので、いそいそと布団に戻る。
すると、その動きのせいかそうでないのか、彼が目を覚ました。



彼「あー…」

私「うん?」

彼「…寝てたね。」

私「そうだね。」

彼「今、何時?」

私「9時前ってところ。」



そっか…なんて言う彼。彼もまた、まだすっかり頭が冴えていないようだ。
その途端にまた遠くで雷の音がしたので、思わずびくんとなり彼に寄り添った。



彼「これからどうする?」



これからというのは、すなわち夜ご飯のことなんだろう。
言葉の意味を解釈したところで、その返答を考える。
正直、お腹はそこまで空いていない。
食べた後特に動いたりもしなかったからそれは当たり前のことだろう。
それに、この雨の中わざわざ着替えて食べに行くのも…正直、気が乗らない。



私「うーん、こっちは大丈夫…」

彼「そっか。じゃあいいか。」

私「うん。でもお風呂は入らないとね…w」



ご飯は食べないにしろ、このままずっとベッドの中にいるわけにも…ね。
せめてお風呂にはきちんと入りましょうということとなった。
なったというか…まぁ、当たり前のことだよ。
と言っても、お風呂に入ると言って実行するまでの時間が長い…
別にわざとではない。物事には流れというものが存在するんですうんぬん…

てなわけで、かくかくしかじかありまして…
ちゃんとお風呂に入るわけでありました。
ここは特に変な想像をしていただかなくても結構ですよ?(ぇ

照明をあしらった薄暗い光は、いかにもホテルであるということを示しているかのようだ。
まぁ、ホテルが明るすぎたらそれはそれでいけないとは思う。
寝るための部屋だから、照明は癒しの空間を提供しなきゃいけないのだ。
…なんでここで語らなきゃいけないんだろう。そうじゃないだろうに、自分。

お風呂に入った後は、ニュース番組をつけ雑談に耽る。
彼は例によって例のごとく…この辺は何もいいまs(略
こういう風に日常的な場面であっても、私たちには非日常的。
あれこれ現実的な話をしているはずなのに、何故かいつもの感覚とは違って捕えられた。

そのまま…思ったよりはしゃべらなかった気がする。
彼に酔いがまわってきたのが原因……あら…(何
そのおかげでいい感じに眠そうである。
…こっちは全く睡魔を感じないけどね。これからどうしろとっ。

時刻は11時過ぎ、テレビ番組は消され、電気もない。
再び夜の静寂が部屋の中を満たしていく。
さっき降っていた雨は落ち着きを取り戻したらしい。
涼しい光が、アクセントとなって再び頭部に降り注いでいる。

その中で、悶える者々がいることは、きっと2人だけの秘密だ。



・
・
・



私「…疲れた。」

彼「同じく。」

私「まだ何もしてないのに…」

彼「いや…なんでもない。」



彼の言いたいことが分かったところで、私たちは新大阪駅へと歩みを進めていた。
時刻は10時。もう3時間半したら、再び物理的距離を隔てなければいけない。
もうちょっと時間があったら…なんて考えるのはいつものこと。

まだ2回しか来ていないけれど、今歩いているこの道が、早くも慣れてしまったように感じる。
次の機会にお目にかかれることに期待するのもまた同じような理由である。
昨日の雨で湿ったアスファルトには、あまり日光は差してはこなかった。
空は乳白色の雲で覆われている。結構厚いようだ。

相変わらず無計画ではあるが、時間も時間なのでどこかに行ける余裕はない。
新幹線に乗る京都駅で早めの昼食を食べ、近くのデパートにでも行こうということに。

関西で電車に揺られるのもちょっとは慣れてきた。
最も人数の多いところに居合わせたこともないから、慣れたという表現は適切ではないかもしれない。
新大阪駅から京都駅までは1本の路線で繋がっている。
これで、今回乗る電車は最後であるということだ。

今度乗るのはいつになるかなぁ…なんて考えると早くも切なくなってくる。
2人してそうなんだから、傍から見ればいったいどういうことになっているのか…

電車はほどなくして京都駅に到着した。ちなみに降りたのは始めて。
周辺を歩くのももちろん始めてということになる。
彼と手を繋いで、地下通路のほうへと歩みを進めた。


彼「さて、何食べようか?」

私「どうしましょうねぇ…」


歩いている時の会話も、何時も通り。
優柔不断さも、重要度のなさも、みんなみんな同じ。
やっぱり生の声はいいものだ。
彼がどんな顔をして、どんなことを感じているのかが読み取れる。

地下通路を進んでいくと、やがてデパートに到着した。
その下の階でご飯を食べようという魂胆らしい。

デパートに入って、エスカレーターで下るとそこはレストラン街。
まだ時間が早いせいか、お店は全て空いているわけではなかった。
とりあえずいつものようにお店のまわりをうろうろして、物色。
物色したところで優柔不断さはどうしようもないのだけれど。
お腹が空いているとなんでもおいしそうに見えるから、尚更なのである。



彼「あ、ここが前に話してたお店だよ。」



彼が指を差したのは、オムライス屋さんだった。
そういえば、彼が何度か友達と足を運んだことがあると言ってたっけな。
なんでも大きいサイズのオムライスがとんでもないとか…
前にその写真を添付してもらったので、見てびっくりした記憶がある。
まぁ大きさはどうであれ、味はいいそうだ。

そんな話を出されたから、もちろん食いつく。
…いや、大きいサイズは頼まないけどね。
店内にはほとんどお客さんはいなかった。当たり前ですけどね。
メニュー表を広げてみる。確かにどれもおいしそうだ…
どれを食べるか迷ってしまう…いつもよりも。

注文を取ったところで、私たちの次に入店したお客さんが、近くの席でタバコを吸い始めた。
それに気がついた彼は席を移動しようと声をかけてくれた。
確かに嫌いだけれども、まさかそこまでしてくれるとは思ってなかった。
気を使わせてごめんという気持ちもあったが、気にかけてくれて素直に嬉しかった。

オムライスはすぐに出てきた。どっちのもおいしそうである。
試しに自分のものを1口…うーん、おいしいっ。
お腹が空いている効果もあるんだろうけれど。



彼「こっちのも食べてみる。」

私「あ、じゃあ食べようかな。」

彼「よーし…」

私「!?」



今の状況を簡単に説明すると…
彼は自分のスプーンでオムライスをすくって、私の目の前に差しだしている。
流石にびっくりしちゃうじゃないデスカ…
彼ってこんなキャラだったっけか…あれ…



彼「こういの、嫌だ?」

私「い、嫌じゃないけど…」



ふと、辺りをきょろきょろ見回す。
前述の通り、お店にお客さんは少ない。
幸運なことに、私たちを視界に入れる人はいない。
移動した席は外から見えるようになっているものの、人は歩いていなかった。
…こ、ここは覚悟を決めて…

恥ずかしさを堪えて、彼の差しだしたオムライスを口に含んだ。



私「…うん、おいしいよ…」

彼「そっか、よかった。」



彼はすごく嬉しそうだ。あまり出してはいないけど。
…さて、ここからが問題である。
流れ的に…その…私もしなきゃいけないんですよねー。
その証拠に、私がオムライスを救う手を彼が見ている。
明らかに期待してるのが見えるところがまた何も言えない。
前述の通り、お客さんはいない。それなら…



私「…こっちも食べる?」

彼「うん。食べる。」

私「じゃあ…はい。」



私はすくったオムライスを彼の目の前に差しだした。



彼「いいの?」

私「…うん。」



心なしか嬉しそうに聞く彼に、一人焦る私。
いいから早く食べてっ、なんて恥ずかしい思いをまたもや抑える。
彼は差しだされたオムライスを口に入れた。



彼「うん、そっちもおいしいね。」

私「そりゃよかったですよ。(あぁ…恥ずかしかった…)」



彼に一体どういう意図があったのかは知りません…

その後はオムライスを黙々と食べ続ける両者。
サイズの小さかった私のほうが早く完食した。
1つサイズをあげて頼んだ彼は…ちょっと苦しそうである。



彼「お腹一杯だなぁ…」

私「何回も来てるのにwwサイズを考えなさいw」

彼「これでも考えたってばw」



話は通じるが、お腹のほうは本当にいっぱいそうである。
休憩がてら、友達にメールを送っていたのもこの時。
…残すのはもったいないしなぁ。



彼「手伝ってくれる?」

私「はいはい。」



残ったオムライスを2人してつまむ。主に私だけど。
彼は友達に食べるのを手伝ってもらってる、自分カッコ悪いとか送ってた。
自分でそういう風に送ってどうするよっ!なんてつっこむのはよしておいた。
少し時間はかかったものの、彼のお皿からはオムライスは綺麗に無くなった。
うーん、さっきとは打って変わって苦しいなぁ…

オムライス屋さんを後にして、苦しい体を動かす。
このデパートにもいろいろありそうだ。ここで帰るまで時間を潰そう。

ノリ的には4月に行ったデパートと同じような感じ。
どちらともなく手を繋ぎ合って、ぶらぶらとその辺を見回った。
服を見てこれはどう?とか、値段がどーたらとか。
そういえば、指輪のコーナーを見て2人してほほう、なんて思ってた。
いつか着けてみようかw?なんて言い合ったのもこの時。
(この話はまた次の機会に聞けるそうですよ。)
本屋さんに行ってみては大学入試のコーナーとか勉強のほうにしかいませんでしたww
勉強ネタは健在であることを物語ってくれるかのようです。(´・ω・`)

そうやっているうちに、時間は迫っていた。
特に面白いこととかをしているわけでもないから悔しい。
…ただ、話してるだけでも楽しいから、仕方ないのかな。

そろそろ駅のほうに行かなくちゃね、なんて声をかけられる。
下に降りるエレベーターを待つ私には、そろそろ決心が必要だった。
乗り込んでボタンを押せば、あっという間に帰り道を示される。
ぎゅっと彼の手を握ると、同じように握り返してくれた。

帰り道の歩速は行きの半分ぐらいだったと思う。
向かいたくない、向かいたくない…そう思ってたら体にも影響してしまう。
行かなきゃとは言ったものの、実際に時間はもうちょっとあった。
どこか落ち着いて座れる場所はあるかなぁ…なんて、一緒に歩いて探してみる。
そういう場所がなかなか見つからないんですよねぇ…(´・ω・`)
彼も言うほど知っている場所ではないようだった。

ベンチ、とまではいかないけど、座れそうな石垣があったのでそこに座る。
体はもう既に重かった。座った途端、言いようのない疲れがのしかかってくる。
座ってる間は、いつもより会話は少なかった。



私「今回も短かったねぇ…」

彼「本当に。あっという間だったや、」



いつか、時間が足りるという概念を彼と学びたいものだと思った。
今度は多分8月の夏休みに会えるだろうという話をした。
期間にしてはおよそ一ヶ月後…今までを振り返れば、短い期間だ。
だからと言って心に余裕が生まれるわけでもなく、ただ動きたくないという気持ちが支配する。
だだをこねたらいけないという理性は働くものだから、何も言わないけれど。
それを分かっているかのように、彼は私の手を握った。
私は、その手に力を込めることは出来なかった。



彼「行こうか。」



彼の声ではっとする。もうそんな時間になっていたのか。
お別れまで残り30分もない。後は駅構内を歩いて、それから…
無心で立ち上がり、駅の方面に向かって歩き出した。
そろそろ言葉を発する余裕さえも無くなってきた。

駅構内に到着。そういえば、駅内もあまりよく見たことはなかった。
いろいろ歩き回ったはずなのに、あまりよく覚えていない。
思考が全て別れのほうにいっていたという何よりの証拠なんだろう。
お土産を見ても、行き交う人たちを見ても、関心事にはならなかった。
ただ、お別れとなる改札を見た瞬間には足がすくんでしまった。

改札付近の柱にもたれかかる。時間はあと10分もない。
彼も同じように体重を預けていた。余裕がないのは一緒、か。

新幹線の表示に遅れが出ていることに彼が気がついた。
どうも雨の影響が出ているらしい。
乗り換えのことを考えると、自分の新幹線はどうなんだろう…
私よりもむしろ彼のほうが心配になっていた。
自ら駅員さんに新幹線の状況を聞きに行こうとする徹底っぷり。
他人のことなのにな…普段はそう思って嬉しくなるのに、憂鬱な気分は変わらない。

彼に半ば引きずられるように、駅員さんのところへ。
私の乗る予定の新幹線は遅れてはいないらしい。
彼より私のほうが安心したみたいだ。
こう見ると、彼氏と言うよりもむしろ身内のように見える…

新幹線の安否(?)を確認したところで、再び沈黙が私たちを包む。
なんとなく、残念な気分がしたのは気のせいではない。
と言っても…今は長期休みではないから、そこら辺の事情も含めて複雑さは抜けない。
どうであれ、ちゃんと帰るんだろうけどね。彼と私の性格的な意味で。


私「大丈夫?」

彼「いや…無理かもしんない。」



彼が苦しそうに笑った。
私はいつの間にか泣いていて、バッグの中からハンカチを取り出す。



彼「またすぐ会えるんだから。ね?」


自分だって辛いはずなのに、彼は私を慰めてくれた。
もしかしたら、自分に言い聞かせていたのかもしれない。
そこまで悟る余裕もない私は、ただ彼の言葉を飲み込もうとした。
1ヶ月、だ。1ヶ月我慢すれば会える。
そう思って自分を励まし、涙を止めようとするのだが全然上手くいかない。
目の前にあるお別れが辛すぎて、上手く思考が働かない。

休日の駅構内。昼間だけれども、人通りは多い。
おおっぴらに抱きついたりは出来ないことぐらいは分かっていた。
その理性よりも、寂しさのほうが勝ったらしい。
残り数分となったところで、私は彼のほうに寄り添った。



彼「人、いるからなぁ…」



憚られるという意味ではあるけれど、人がいるのが惜しいという意味なんだろう。
人がいなかったら思いっきり抱きつけるのにね。
そんな思いとは裏腹に、時間は改札へ向かう時刻を差した。



彼「行かなきゃね…」

私「うん…」



離れようとした瞬間、一瞬だったらいいだろうという考えが頭をよぎる。
それを実行するのにそうそう時間はかからなかった。
離しかけた体に力を入れて、今度はちゃんと抱きついた。



私「今回もありがとう。」



突然のことだったせいか、彼は一瞬びっくりしたようだった。
けれど、自分が今何をされているか理解したのだろう。
私の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくれた。

しかし、それはほんの一瞬だった。
素早く彼から離れると、目をあわせずに改札のほうへと向かう。
チケットを手に握りながら、何を思ったのか、後ろを振り返った。
ちょうど彼が置いていた荷物を持ち上げているところが見える。
途端に目があったらどうしようなんて考えて、すぐに前を向いた。


―それが、今回彼を見る最後となった。


新幹線の中では予想通り、テスト勉強なんか進まなかった。
行きに大分やっておいてよかったな、なんて思った。
こんな気分なのに明日からテストか…正直、乗り切れる気がしない。
寝込みたい気分ではあるけれど、それも自分で決めたことだと言い聞かせた。

乗り換えも無事に出来て、仙台に着く。
彼にちゃんと帰れたことを伝える。
お疲れ様という言葉と同時に、明日のテスト頑張ってという言葉が送られてきた。
頑張れるかなぁ…なんて苦笑しながら、明日に向けて形だけでも勉強しようと思った。

仙台はやけに涼しく感じてしまった。大阪がいかに暑いかがよく分かる。
今度会えるのは、こっちでももう少し暑くなった時期であろう。
でも、そのほうがかえって丁度良かったりして。



―今度は…この場所で会おうね。





次回予告的なもの。

    ―「いいところだね。」

    
             「ごめん…本当に…」

 「約束、するから…」


―君と過ごす2度目の夏も、とびきり素敵な時間でした。




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*ぼやき

好き、嫌い、好き、嫌い、好き…あ、どうもこんにちは。
てなわけで、今回はちょっと長かったですが4回目が終わりました。
今回の教訓は…やっぱり無茶はタイミングが重要ですね。
無茶にそんなものがあるかどうかは置いておきますが…
まぁうん、今回はきっと成功でした。そう信じさせてください…

ちなみに経済学と英語の単位は無事ゲットしましたよっ!
経済学はぎりぎりだったけどねっ!でもいいんだっ!あんなので上位が取れたら人間じゃないもんっ!
…とまぁ、後悔の念に囚われるようなことにならなくってよかったです。

業務的ですが、ネットのほうは今度からちょっと書き方が変わるかもしれません。
こんなこと書いておいて得になるのかさえ知りません。(蹴
そろそろここのスペースもどう使っていいかが分からなくなってきましたよ。

…では、今回はこれにておさらばです。
次回も是非御贔屓にー。ではでは…



続きはこちら↓

辛いというのはもう少しで幸せになれる証拠(前編)

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